とある惑星。巨大な少女が一人、その巨大さが霞むほどの大きさの穴の前に立っている。ウルトラガールソフィーだ。 銀色に輝く身体、顔立ちにはまだ幼さが残るがしなやかな肢体、適度な膨らみと丸みを帯びた胸や尻は美しい曲線を描き出している。 「この穴は・・・」 地面に空いた巨大な縦穴を覗きこむソフィー。穴の直径は1kmにもなろうかという巨大さ。また底が見えずどれほどの深さがあるかは検討もつかない。 「飛び込んでみるしか・・・なさそうね」 一瞬の躊躇いを見せるソフィー。彼女たち光の一族は光をエネルギーとするため、光の届かない場所での活動は大きな危険をともなうのである。 眉尻が上がりソフィーの表情が凛と引き締まる。彼女はふと宙を見上げるとまっすぐ腕を伸ばし空を指さした。すると指先から光が放たれ、その光は宇宙の果てへと走り消えていった。宇宙警備隊へメッセージを送ったのだ。 光の届かない場所での活動が予想される際、念のためその旨を仲間たちに連絡しておくのがしきたりだ。万が一の事態にそなえて・・・。 「よし!」 意を決し穴に飛び込んでいくソフィー。彼女の姿はあっという間に闇へと消えていった。深い闇の中へ・・・。  この星にはまだおよそ文明と呼べるものはなく、怪獣や巨大植物など大型の生物が多く生息している。 しかし、近年怪獣や大型の動物が明らかにその数を減らしているという。単なる自然環境の変化によるものであれば放置しても問題はないのだが、こういった星に侵略宇宙人が拠点や秘密基地、実験場を設けることも少なくない。 ソフィーはその調査のために宇宙警備隊からの命を受けこの星にやってきたのだ。 そして不自然なほど巨大な穴をこの星の多くの場所で見つけ、そのうちの一つに飛び込んだのだ。  穴の底を目指し降下を続けるソフィー。穴の大きさが大きさなだけにまだ入り口の光はしっかりと届いている。穴は底に向かうほど徐々にだが狭くなっているようだった。 「いったいどれだけの深さなの・・・」 そうつぶやいたのもつかの間、ソフィーは自分の目を疑った。 周囲に見えていたはずの壁面が突然闇に溶けるように消えたのだ。 「なに・・・!?」 空を見上げると先ほどまではっきりと見えていた入り口の光もまったく見えなくなっていた。 そして一切の光が消えて間もなくソフィーの足に衝撃が走った。 「あうっ!?」 身を放り出されるように前方に倒れこむソフィー。穴の底についたのだ。 「うっ、うぅ・・・」(底なんて全然見えなかった・・・) 急ぎ身体を起こし辺りを見回すが真っ暗でなにも見えない。伸ばした自分の腕すら闇に消え入りそうだった。 おもむろにソフィーは自分の手の中に光の粒を作り出した。暗闇で活動するための明かりを作る能力だ。 光の粒は強烈な光を放っていたが辺りは相変わらず無明の闇に包まれていた。 この不自然な闇の原因をつきとめるべきか、一度このことを報告に戻るべきか。 当然の選択肢、迷い。だがその迷いが命取りとなった。すぐにでも立ち去るべきだった・・・。    ソフィーは試しにと光の粒を放り投げてみる。すると光はあろうことかほどなくして闇に飲まれていったのである。 (暗いだけじゃない!?光を遮るか、吸収するなにかが・・・) 危険、と判断するには遅すぎた。ソフィーの身体が無明の闇の中、宙を舞った。 「かっ・・・!?」 息が詰まる。背中に衝撃があった。背後から突き飛ばされたようだ。 「くぅ・・・!」 吹き飛ばされる間、一切は闇の中でなにも見えなかったが突如眼前に地面が見えなんとか受け身を取ることはできた。 ーグオオオオオォォッ!! 大音量にソフィーは身構えた。 (獣の・・・咆哮?) 直後ソフィーは再び吹き飛ばされた。先程よりもはっきりと、衝撃は骨を伝いソフィーの聴覚に届いた。ガシャッという特大の擦過音と衝突音が混ざった音。 吹き飛ばされる寸前左目の視界の端に何かが見えた。恐ろしいことが起こると察知したのか、一瞬の出来ことが妙に長く感じ冷や汗がながれた気がした。 「うっ・・・あああああああぁぁっ!!ああああああぁぁっ・・・」 今度は受け身を取れずうずくまった。そして顔面を襲う熱を帯びた激痛に絶叫した。 痛む顔の左側を覆った手からみるみる血が溢れ出すのを感じた。 (熱・・・い・・・!!なに・・・何が起こったの!?痛い!!顔・・・痛い痛い痛い・・・何、コレ頬が抉れて、骨?・・・やっ、口の端まで・・・裂けてる!?痛い!!!) 何が起こったのかわからぬ間に起こった事態にソフィーは一瞬パニックに陥った。 「ハッ・・・フッ・・・!!」(落ち着いて!!落ち着け、冷静に冷静に・・・) 歯を食いしばって痛みを堪え、呼吸は荒かったが徐々にだが気持ちを落ち着けていった。暗闇の中で傷の具合を視認できないことが冷静さを取り戻すには幸いした。 (攻撃を受けてる。敵の数は・・・わからない。足音も気配も感じなかった。けど咆哮はひとつだった) 「ぐっ・・・うぅ・・・」 その動作は緩慢だったが確かな足取りで立ち上がる。頬から離した手は血に塗れヌルヌルとしていたが、あえて見ないようにした。 置かれている状況もだが、精神的にも危険な状態だ。ただでさえも光の届かない危険な場所で、無明の闇の中から正体もわからない敵に襲われているのだ。 ソフィー自身、よくこの状況で冷静さを取り戻せたと思った。 母の教えや故郷での訓練がなければあのまま自分を見失っていただろう。 ソフィーはおもむろに飛び上がった。一度、この場を退く判断だ。周囲の状況、襲撃者の正体も不明なこの状況では懸命な判断だ。まずこの情報を持ち帰り、改めて対策を練る。調査任務での状況判断も心得ている。  しかし、飛び上がった直後ソフィーは背筋が凍りつくような感覚に襲われた。 頭を打ち付けたのだ。多少の痛みもあるが問題はそんなことではない。 「え?うそ・・・どうして!?」 ソフィーは縦穴を真っ直ぐに降りてきたはずなのだ。だが飛び上がったそこには天井がある。 (さっきの攻撃で横穴か何かに・・・!?) この正体不明の闇に入ったとき、既に入り口の光は見えなくなっていた。そのせいで天井のある空間に入れられたことに気づかなかったのだ。 (どうする・・・どうしたら・・・) くっ、っと歯噛みしてソフィーは走りだした。ここに留まっていてもこの危険が去って行くことはない。 彼女はひたすらに天井の有無を確認しながら、無明の闇を駆けた。前後左右もわからぬ闇の中、たびたびつまづずき、岩肌に激突したが構わず走った。正しい方向に進んでいるのかもわからないまま。 「ハァッ・・・ハァッ・・・」 呼吸が乱れる。できるだけ余計なことを考えないように一心不乱に出口を探し走った。 しかしそれでも足を踏み出す度ソフィーの心のなかの不安と恐怖も加速していった。 そして不安と恐怖が現実のものとなるように、走るソフィーの目の前、闇の中から突如獣の牙が姿を現した。 「・・・・・・っ!?うあっ・・・あぁっ・・・!!」 仰向けに押さえ込まれるソフィー。獣の牙はとっさに構えた右腕に深々と突き刺さっていた。しかし目の前に現れたことでついにその姿を捉える。 漆黒の、発達した体躯を持った四足歩行の怪獣、というよりは獣と呼ぶほうがふさわしいだろうか。全長はソフィーよりやや大きいくらいだが、 右腕に喰らいつくいかつい牙、鋭く巨大な爪を有している。 右腕に牙を突き立てられ、左手でなんとか猛獣の顎をこじ開けようとしつつも敵を観察しているとソフィーはあることに気づいた。 右胸を押さえつける爪が赤く濡れている。 (この爪で・・・顔を・・・) 恐ろしく鋭く、また大きなこの爪に顔面を抉られたのだとわかった瞬間寒気だった。 だがすぐにソフィーの意識は目の前の猛獣に戻される。 「ああああああああぁぁっ・・・・っ!!」 絶叫から徐々に搾るように変わっていく悲鳴。左手での抵抗も虚しく猛獣はガブガブと右腕を食っていった。噛まれる度に傷口は広く深くなっていき新たな血が溢れ出す。 「くっ、うぅぅぅっ・・・・やぁっ!!」 この獣を片手で引き剥がすのは無理と判断したソフィーは痛みにうめき声を上げながらも左手に収束したエネルギーを猛獣の首に向けて放つ、と同時に腹を蹴り飛ばした。 すると猛獣はグウゥッっとくぐもった声をあげソフィーの身体から離れた。が、 「あうぅっ・・・!!」 胸を押さえつけていた爪で胸から脇腹を抉られていた。 さらに重傷なのは右腕だ。ソフィーの右腕は大きく食いちぎられていた。彼女の攻撃にも猛獣はその牙の力をゆるめてはいなかったのだ。これだけ腕の損傷が大きいともはやエネルギーを収束することは困難だろう。 それどころか手首から先を満足に動かすこともできないほどの重傷だ。 激痛に身を縮めるように丸めうずくまってしまうソフィー。涙で歪む視界の中、獣はまた闇へと姿を消した。 逃げなければ・・・。この闇の中ソフィーには姿を捉えることはもちろん、どういうわけか気配や足音すら感知できていない。一方獣はこの闇の中でも確実に自分を狙ってくるのだ。 ソフィーは立ち上がり先ほど獣が消えていった方とは逆に走りだそうとした。しかし、不意に目眩に襲われた彼女は岩肌に見を預けるようにもたれかかってしまう。 「ハァッ・・・ゼッ・・・ハッ・・・」(苦・・・しい・・・。これは・・・) 自らの胸の半球体に視線を落とす。彼女のカラータイマーはすでに赤い光に変わっていた。 「どうして・・・こんなにエネルギーを消耗して・・・」 確かに深い傷を負ったがそれでもこのエネルギーの消耗は異常だった。 震える足に力を込め、ヨロヨロと壁から壁へ倒れこむようになんとか歩を進める。 しかし、彼女の表情からは完全に覇気が失せていた。この穴を調査する決意をしたときの凛とした表情は見る影もなく恐怖に引きつり怯えているようだ。 脱出困難な暗闇、絶対的不利な戦況に加え原因不明のエネルギーの消耗。やっとの思いで抑えこんでいた不安と恐怖は膨れ上がりソフィーの心を喰らい尽くしたのだ。 そんな彼女を更に追い詰めるようにどこからか獣の唸り声が聞こえてくる。しかも今度はそれが一つではなかった。 「嘘・・・そんな・・・ひっ!?」 ヨロヨロと後ずさるソフィーの背中が壁にぶつかる。もはや自分がどこから歩いてきてどちらを向いているのかもわからなくなっていた。そして、精神的に完全に追い詰められたソフィーは・・・ 「わあああああああっ・・・!!」 恐怖を振り払うように絶叫とともに必殺光線の構えをとった。穴の中だ。崩落の危険もある。だが、この状況では必殺のライトニングレイでなぎ払うしかない。 この行動が正しい判断かどうかはわからない。選択肢などあってないようなものなのだ。 だが、ソフィーは明らかに冷静ではなかった。ジジッという音と共に右腕に小さな火花が散る。そして次の瞬間、 「きゃあああぁっ!!」 ソフィーの必殺光線は放たれることなくその場で爆発を起こした。あまりにも激しく損傷した右腕はエネルギーを収束出来ずに暴発したのだ。もうもうと黒煙を上げるソフィーの傷ついた右腕はあちこち黒く焼け焦げたようになっている。 冷静に考えればあれだけ大きく食いちぎられた腕の状態を考えればこうなることは十分に考えられた。 「あ・・・あ・・・あぁっ!!」 呆然自失になり壁にもたれながらがっくりと膝をついたソフィーが崩れ落ちそうになる前に右足の付け根が抉られた。あの獣の爪撃だ。 「ぐぅっ・・・あっあああああああっ!?」 そして別の1頭だろうか。間髪入れずに1頭がソフィーの左のふくらはぎにかぶりついた。 激痛と恐怖に悲鳴をあげ、四つん這いのまま文字通り這うように逃れようとするソフィー。 だが、抵抗も虚しく、しっかりと筋肉がつきながらも柔らかいふくらはぎはつぶされ、歪み、引き伸ばされ・・・。 「いっ・・・・やっ、あああああぁぁっ・・・!!」 ビリッ・・・ブチッ・・・。皮が破れる音なのか肉が裂ける音なのか。そしてついに獣はソフィーのふくらはぎを喰いちぎった。 足の状態を確認することはしなかった。恐ろしくてできなかった。だが足首から先の感覚は失せ、ふくらはぎの筋肉の大部分が失われたであろうことは容易に想像できた。 「うっ・・・うぅぅっ・・・あうっ」 うつ伏せで呻く彼女の体は獣に小突かれ仰向けに姿勢を変えた。足側に2頭、頭側に1頭、もはやろくに動けぬ少女に猛獣が群がる。 「あっ・・・あ゛っ・・・ああああああっ・・・」 腕、太もも、そして乳房にそれぞれがその鋭い牙を突き立てた。 骨がなく特に柔らかい乳房は早々に喰い荒らされた。 「いやっ・・・いやああああああぁぁっ!!」 少女にとってあまりにもむごい現実、むごい光景だった。右の乳房は完全にその膨らみを失っていた。 そして、今更になってソフィーは気づく。獣がしばらくの咀嚼の後、喉を鳴らした。 「いや・・・いや・・・やめ・・・て・・・」(この怪獣・・・) (私の身体を喰ってる・・・!?) 腕、太ももにかぶりついた2頭もガブガブとそれぞれの部位をかじり血をすすっていた。 そして左腕を喰っていた柔らかい部分は食い尽くし、また別の柔らかい部位を食そうというのか左の二の腕に食らいついた。 もはやソフィーの四肢にまともな状態の部位は残ってはいない。 すると先ほど乳房を喰った1頭が腹に爪を立てる。ブツッという音とともに腹の皮は破かれ・・・。 「い・・・ぎ・・・ゃあああああああぁっ・・・」 肉が裂かれ内臓が露わになる。もう、何をしようとしているのか。考えようとしなくても理解できた。 獣は、嗚咽し、抵抗する力もすべも失った巨大な少女の・・・内臓を喰らい始めた。 ソフィーが最後に記憶した光景は自分の内臓を喰らう、血まみれの獣の姿だった。  それからしばらく後。宇宙警備隊員の何名かがソフィーが消息を絶った穴に入った。 穴に入る前にメッセージを送っていたため、そこで消息を絶ったソフィーの捜索、救助隊が派遣されたのだ。救助隊はエネルギーレーダーがわずかに受信するエネルギー源を頼りに暗闇を進んでいった。 陣形を組み四方をバリアーで完全に防御しながら。だが、予想された猛獣達の襲撃はなかった。 そして、ついにソフィーを発見することに成功する。変わり果てた姿の彼女を。  ソフィーは両肩から下、そして、胸から下の部分をすべて失っていた。しかし、硬い部分を避けたのか、その血肉にしか興味が無いのか顔は左頬がひどく抉られているが頭部とエネルギーの核であるカラータイマー周辺は無事でなんとか蘇生、肉体の復元ができた。 しかし、意識を取り戻した後も全身に障害が残り未だに手脚を自由に動かすことができないでいる。また、喰われた身体は復元できたものの今回のことで喰らい尽くされた心はいかに光の国の医療術でも癒やすことはできず、少女の心に大きなトラウマを残すこととなった・・・。  光の国の宇宙警備隊はあの穴に巣食っていた獣を「アビスルーラー」と名付け、閉所、暗所での戦闘を絶対に避けるように警告を発した。    以下は「アビスルーラー」に関する調査報告と調査に赴き重傷を負ったソフィー隊員の経過報告である。 アビスルーラー(黒き獣) 『全身は黒く、非常に発達した体躯をもつ4足歩行の怪獣。尻尾から噴出する物質は光を吸収しそれを暗所で滞留させることで獲物の視界を奪い自らの姿を闇に隠す。また、この尻尾からの噴出物の中では気配や足音を消すことが可能なもよう。この器官から推測するに何者かによって製造された人造生物であり、あの星で飼育されていた可能性が高い。またこの物質は光の国の者に悪影響を及ぼすようである。調査中のソフィー隊員を襲った原因不明のエネルギー消耗はこの物質を多量に吸い込んだためと思われる。以後、この物質を「暗黒物質」と呼び、調査を続けることとする。その他に特殊な能力は無いようだが、強靭な身体から繰り出される突進や大きく鋭い牙と爪の攻撃は脅威である。また、「暗黒物質」を滞留させた空間では気配も足音も察知することができず光の国の戦士におおよそ勝ち目はない。「暗黒物質」が滞留する閉所、暗所での戦闘は絶対に避けるものとする。』  ソフィー隊員の療養経過:肉体修復後2ヶ月が経過した今も身体機能は一向に回復しておらず満足に四肢を動かすことができない。つきっきりの看護、および介護が必要な状況である。 身体の修復は行ったが、これほどのダメージを受け蘇生できた例は今までにもなく、このまま身体の機能が回復せず一生障害が残る可能性も十分考えうる。  しかし、精神的なショックが非常に大きくその影響で身体を自由に動かせなくなっているという可能性も十分に考えられる。修復したはずの腕や脚が痛むと頻繁に訴えるのもそのせいかもしれない。  会話などは可能だがかつてのような明るい表情は見られない一方、暗闇や歯、また牙や爪を持った生物、四足歩行の動物に対し酷く怯えた様子を見せ、発作を起こすこともあるので注意が必要。  睡眠中も毎晩のようにひどくうなされている様子が見られる。その際発汗が多くなると汗にによる湿りやぬめりを血と錯覚し心的外傷を悪化させる原因にもなるので注意が必要である。  今後はカウンセリングや車椅子での散歩など心のケアを重点的に行なっていく必要がある考えられる。 メンタル面での回復が見られれば、リハビリを経て身体機能を回復することも十分に考えられる。 「しかしながら、現時点でのソフィー隊員の宇宙警備隊への復帰は絶望的であると言える。」